建築の一覧

  • アーケード

    欧米語表記:Arcade

    アーチが開口する壁を一方向に連続して構成されるアーチが連続する壁体、または曲面天井(ヴォールト)に覆われた路線状の空間をも指す。日本のアーケード街は後者である。

  • アーチ

    欧米語表記:Arch アラビア語転写表記:qaws

    壁に開口する部分を作るために弧状に渡した構造材を指す。石やレンガを積み重ねた建物(組積造建築)において屋根を架ける場合や入口を作る場合などに、横方向に渡す長大な部材が得られない場合、小さな部材を迫持ち状に配することで、構造的に安定した部分(横架材)を作ることができる。イスラーム以前には、地中海周辺に半円形、ペルシアに放物線形のアーチがあったが、イスラームの普及以後、尖頭形、多弁形などさまざまな形が作られ、構造に加えて装飾的な役割が大きくなった。

  • アバクス

    欧米語表記:Abacus

    柱頭(柱の上にのる装飾的な部材)と梁の間に挿入された部材で、古代ギリシア・ローマ建築では厚板状の場合が多い。平面を広げることによって、梁との接合を安定させ、高さを調節するために使われる。

  • アブラク模様

    欧米語表記:Ablaq アラビア語転写表記:ablaq

    縞模様の建築装飾を指す。名称は、アラビア語のアブラク(交雑)に由来する。この技法は、イスラーム以前のシリアの初期キリスト教建築において、異なる素材(レンガと石)を層状に積み重ね、双方の構造的利点(軽くて弱いレンガと重くて強い石)を利用したことを起源とする。コルドバのメスキータのアーチは、創建当初、この伝統を受け継いでいた。その後、縞模様が装飾的役割を強め、色石を重ねたり、あるいは表面を縞状に塗り分ける装飾技法となっていった。マムルーク朝建築でアブラクを利用したものは、特にシリア地域に目立つ。マムルーク朝のスルターン・バイバルス1世は、1266年にダマスクス郊外に建設した宮殿をカスル・アブラク(縞模様の宮殿)と名付けた。

  • イーワーン

    欧米語表記:iwan アラビア語転写表記:īwān

    開放的な建築空間を指すペルシア語に由来する。狭義には、大きなアーチを開口した広間(半戸外となることが多い)を指し、本来は曲面天井(ヴォールト)をいただく。軸上に対に、あるいは直交する2軸上に4つ対称に配置される例が多く、それぞれ2イーワーン式、4イーワーン式と呼ばれる。イーワーンは、各法学の教室として利用され、4イーワーン・マドラサはスンナ派4法学派のための教室となった。マムルーク朝初頭の13世紀後半から、カイロに大アーチが開口する広間にトンネル・ヴォールトをかけ、対に用いる技法が導入された。スルターン・ハサンの複合施設にある4つのイーワーンはその好例である。なお、当初はトンネル型の天井で覆われていたが、エジプトにおいては次第に平天井の例が多くなっていったが、いずれの場合もイーワーンと呼ぶ。住宅形式のカーアと類似するが、異なる分類として峻別される。

  • インスクリプション

    欧米語表記:inscription

    英語で刻むこと、あるいは銘刻を指す。イスラーム建築においては、形式的なイスラーム書体で表現されたアラビア文字で、建物を装飾することが好まれた。その文章には、クルアーンの章句が描かれることが多いが、施主や建造年なども書き添えられる。マムルーク朝建築においては、コーニスなど帯状の装飾帯がインスクリプションで装飾される事例が多く見られる。

  • 浮彫

    欧米語表記:relief

    建築装飾において、地の部分を彫り込んで、図の部分を浮き上がらせる技法。例えば、文字装飾では、バックの部分を彫りこむことにより、文字が浮かび上がる。凹凸の程度によって、浅浮彫などの用語も使われる。マムルーク朝の建築では石材、スタッコ、木材などに適応される。

  • 打ち抜き細工

    欧米語表記:perforated work

    板状(石やスタッコ)の部材を紋様状に打ち抜き、透過光によって装飾する技法またはその細工。カイロでは古くはイブン・トゥールーン・モスクの高窓層が知られ、さまざまな幾何学文様が用いられる。マムルーク朝期には、窓の内側に彩色豊かなステンドグラスをはめ込み、窓の外側に打ち抜き細工を用い、二重の模様の重なる複雑な装飾が好まれた。

  • オニキス

    欧米語表記:Onyx

    オニキス自体は縞目の硬い鉱物(玉髄)を指すが、建材としての黄色オニキスや緑オニキスは、リビアやエジプトなどで産出する黄色や翡翠色で縞目の入った被覆用の石材。縞目の美しさから板状に用いられる場合と、小さく切って色石として用いられる場合がある。マムルーク朝の建物の腰壁(壁の分節の最も下の部分、高さ0.7メートルから2メートル以上までを指す場合もある)や色石のモザイクに多用される。

  • カーア

    欧米語表記:qa'a アラビア語転写表記:qā'a

    本来は広間を指すアラビア語で、中世アラブの客間様式を表す住宅史用語として使われる。その形は、中央に一段低い部分(ドゥルカ)を作り、その両側を一段高い広間(タザル)とし、3つの空間は連続的ながら、途中にアーチが挟まれ、両脇部分はイーワーン(大アーチを開口する広間)のような空間となる。中央の空間を高くして、そこに空気や光を取り入れる高窓(シャクシェイハ)を設け、その下に噴水を設置するなどして、快適な室内気候を作り出した。このような形式は、ファーティマ朝に成立したという見方とアイユーブ朝期に成立したという見方がある。マムルーク朝の14世紀には、宮殿や邸宅に定型化した実例が残り、邸宅のカーアがモスクに転用された例も数例ある。特に14世紀後半以後、住宅のカーアとモスクのイーワーン形式は似通った発展を遂げた。

    出典:O'Kane. Bernard, Domestic and Religious Arcitecture in Cairo. Mutual Influences, Behrens-Abouseif. Doris ed. The Cairo Heritage, 2000. AUC

  • ガラスモザイク

    欧米語表記:Glass mosaic

    小片を集成して図柄を表す装飾技法。小片として色ガラスを使用したものをガラスモザイクという。モザイク技法自体は本来は石を用いており、ヘレニズム以後地中海周域に流布した技法であるが、ガラス・モザイクはビザンツ建築において多用された技法である。イスラーム以後、初期イスラーム時代の岩のドーム、ダマスクスのウマイヤ・モスクに使用された。その後、コルドバのメスキータ(10世紀の拡張部)に使われ、13世紀にアイユーブ朝、マムルーク朝の数例に復古的に使われるが、イスラーム建築においては定着しなかった。

  • 幾何学模様

    欧米語表記:Geometric Pattern

    直線によって構成される幾何学図形(三角形、四角形、五角形、星形など)を規則的に繰り返すことによって、平面を埋め尽くした模様。基本的にはコンパスと定規で描ける図形であり、最小単位を見いだすことによって、その構成方法が理解できる。イスラーム建築においては具象的な絵画を忌避したために、幾何学模様、植物模様(アラベスク)、文字模様が極度に発達したが、そのすべては幾何学を基本としている。ドーム等の球面に適応されることもあり、マムルーク朝後期には、幾何学模様を施したドームが好まれた。

  • キャノピー

    欧米語表記:canopy 別称:天蓋

    天蓋のことを指す英語。現代建築においては、建物から突出する大規模なひさしも含まれるが、歴史的には玉座や墓石など高貴な場所を覆うものを指した。天蓋は、支柱と布からできた簡易なものから、石製や天井から吊るされた金属製など様々である。

  • キャノピー墓

    欧米語表記:canopy tomb

    四角形の平面(壁の場合が多いが柱の場合もある)にドームを架けた墓建築のこと。イスラームの教義においては、墓建築は否定されたが、9世紀頃から、ドームを持つ建物で覆われる墓が見られるようになった。この形式はイスラームの広がりとともに、北アフリカから中国、東南アジアまでの広い地域に見られる。東方のイスラーム(イラン、中央アジア、インド)などにおいては、墓建築が多様に発展したので、それらと区別するために、簡易なドームのみを持つ簡易な墓建築を指す言葉として用いられる。インド、マムルーク朝の墓建築は、概ね、キャノピー墓である。また、キャノピー墓はブハーラのサーマーン廟のように、単独で建てられたものを指すことが多いが、マムルーク朝建築においては、複合施設を建てる際に、その構成要素の一つとなった傾向が見られる。

  • 櫛形アーチ

    欧米語表記:segmental arch

    半円アーチを構成する円弧のうち、上部だけを用いたものを、その形から櫛形アーチという。イスラーム建築では尖頭形アーチを用いることが多いが、マムルーク朝建築においては、フラットアーチ(形は梁と同様に平だが、部材を迫持ち式に積んだもの)の荷重を低減するために、その上部に櫛形アーチをかけて空間を作ることが好まれた。

  • 組子

    欧米語表記:muntin

    木製の矩形断面の小さな部品を様々な継手で組み合わせた透かし細工。全体は幾何学文様の構成となる。同じく木製透かし細工ながら、裏表の面は平らになる点は、ろくろ細工のマシュラビーヤとは異なる。カイロにおける組子技法は、マムルーク朝期にさかのぼる実例があるが、マシュラビーヤが普及し現在も使われているのに対し、組子細工は廃れてしまった。

  • クレネレーション(銃眼装飾)

    欧米語表記:crenellation

    建物の上部に立ち上がる壁(パラペット[手すり壁]、バトルメント[胸壁])で、装飾的な凹凸をもつものを指す。この凹凸は本来、城塞建築において矢や銃をうつ狭間(マーロン[銃眼])を作るために設けられたものである。乾燥地域の建築では陸屋根(平らな屋根)に、装飾的な透かし壁を立ち上げることがあり、その部分をクレネレーションと呼ぶ。カイロのイスラーム建築においては、イブン・トゥールーン・モスクの実例が特徴的なものとして残っている。

  • クロス・ヴォールト(交差曲面天井)

    欧米語表記:cross vault 別称:交差ヴォールト

    2つのトンネル・ヴォールトを直角に交差させた時にできる曲面天井。ヴォールト(曲面天井)は、四方のアーチの互いに向かい合う頂点をつなぐ十字形と、互いに向かい合う起拱点(アーチの最下点)を結ぶアーチの稜線から構成される。西欧のゴシック建築において、稜線部をリブ(突出した帯)として強調することによって、特異発展した技法である。イスラーム建築でも散見されるが、ゴシック建築と比べると副次的な技法にとどまる。カイロのマムルーク朝においては、アークスンクール・モスク(1346年)に大規模な実例がある。

  • 格子細工

    欧米語表記:lattice work

    「格」には骨組み、あるいは方形に組み合わせるという意味があり、格子は狭義には細く長い材を縦横に間をあけて組んだものを指す。アラブのイスラーム建築においては日本の障子の桟のような格子細工は存在しない。透かし細工にする場合、小さな部品を組み合わせる組子細工(参照)やマシュラビーヤ(ロクロ細工)、あるいは石やスタッコを打ち抜く打ち抜き細工とすることが通例である。

  • 格間天井

    欧米語表記:coffer ceiling 別称:格天井

    天井を平滑面とするのではなく、四角形などの枠組みを反復・分割して凹凸をつけて構成する技法で、格間は突出する部分によって分割された凹んだ部分を指す。日本では仏教寺院内陣部や、二条城の大広間などの格の高い空間に使われる。また、ローマのパンテオンのようにドーム曲面に採用されることもある。中東のイスラーム建築においては、幾何学模様で格間を作ることもあり、より発達すると木製ムカルナスの天井となる。

  • コスマテスク

    欧米語表記:cosmatesque

    色石の象嵌細工の様式を指し、中世イタリアを中心に、ヨーロッパの教会堂に広まった。細かな幾何学図形を用いることに加え、円柱を輪切りにした円形を主たる構成とする点が特長である。その名は、12世紀から13世紀のローマで一族で色石のモザイクを作成したコスマティ家に由来する。地中海世界においては、多色の大理石を象嵌にして模様や図柄を表現する手法が伝統的にある。そうした中で、コスマテスクが成立した背景には、当時のラヴェンナのビザンツ建築、パレルモのノルマン建築からの影響、さらに既存の建物に使われた石材がローマには豊富に存在したことなどの複数の要因が重なったことがあげられる。マムルーク朝建築の色石細工の発展には、地中海のイスラーム治下の技法とともに、キリスト教圏の事例も視野に入れるべきである。

  • コラム(円柱)

    欧米語表記:column

    円形断面の柱を指す。地中海世界においては、コラムの伝統が強く、エジプトにはファラオ時代、ヘレニズムからコプト時代まで数多くの建築にコラムが使われた。イスラーム以前にも石材の転用は行われていたが、イスラーム化以後その傾向は顕著となる。モノリス(単一部材)の円柱は、2次的利用が容易かったので、アムル・モスクやアズハル・モスクをはじめ各所に転用され、マムルーク朝後期までは、モスクは転用材の円柱で構成されたものが大半を占める状況である。通常はヘレニズム以後の円柱が転用されたが、マムルーク朝期には、意図的にファラオ時代の柱を転用することもある。柱礎や柱頭で高さを調整し、不揃いな円柱で空間が構成された。中には柱頭を柱礎としたものもあり、それぞれバラバラに使われた。

  • コリント式

    欧米語表記:Corinthian order

    古代ギリシア・ローマ建築の柱の様式名の一つ。様式名は柱(柱礎、柱身、柱頭)とその上にのる水平部分(エンタプラチュア)を含めた比例をさし、ギリシアの様式は、柱が太く重厚なドーリス式、柱が細く軽快なコリント式、中間的なイオニア式に区別される。それぞれの様式では、柱頭が特徴的で、コリント式柱頭はアカン指すの葉に包まれ。上部の四隅に渦巻き型を突出させる。エジプトのイスラーム建築におけるファラオ時代以後、コプト以前の中東の転用材では、コリント式柱頭が圧倒的に多い。なお、転用の際には、柱頭、柱身、柱礎を別々に用いることが多く、古代建築における柱の比例は無視された。

  • サビール

    欧米語表記:sabil (fountain) アラビア語転写表記:sabīl

    公共の井戸のこと。イスタンブルではセビル。乾燥地域が多い中東・北アフリカ地域では、旅行者・巡礼者のための井戸の整備が実用面の他にも、旅人を保護するという宗教的な慈善行為からも重要視されていた。カイロのサビールの多くは、ナイル川や運河から水を運び、地下の貯水槽に貯めて利用していた。マムルーク朝期からオスマン朝期・ムハンマド・アリー朝期にかけて、有力者による寄進(ワクフ)によって多くのサビールが建設された。

  • サビール・クッターブ

    欧米語表記:sabil-kuttab アラビア語転写表記:sabīl kuttāb

    一階部分に公共の井戸であるサビール、二階部分が読み・書き・クルアーンなどを教える初等教育機関であるクッターブを備えた複合慈善施設。給水施設のサビール(セビル)はイスタンブルやエルサレムなど他の地域にも見られるが、複合施設のサビール・クッターブはカイロで発展した特徴的な建築物である。マムルーク朝期から既存のモスクやマドラサの付属施設として建設され、後に単独の施設として建設されるようになった。特に17,18世紀のオスマン朝下のカイロ市内に多数建設された。

  • 漆喰透かし細工

    欧米語表記:perforated stucco work

    透かし細工は、素材の背面まで通じる部分を作ることによって、地と図を表現する技法で、残された素材部分とその間の空間部分から構成される。素材として漆喰板を用いたものを漆喰透かし細工と呼び、漆喰の板を模様に沿って糸鋸等で打ち抜くことによって、製作される。石に比べて容易く切り抜けるために、透かし高窓等に頻繁に利用された。中東のイスラーム建築においては透かし細工の素材としては、石、木、スタッコ、レンガなどが用いられ、木やレンガの透かし技法では、大きな素材を打ち抜くのではなく、小さな部品を集成する技法が用いられた。

  • シャディルヴァーン(滝状の噴水装置)

    欧米語表記:Shadirwan アラビア語転写表記:Shādhirwān

    上質なカーテンや掛け布を指すペルシア語で、中世には傾いた壁から水が流れ落ちる滝状の装置を指すようになる。実例としては、パレルモのジーザ宮殿、あるいはマムルーク朝のサビール(給水施設)や邸宅の室内に設置されたものが残る。サファヴィー朝やムガル朝インドの実例もあり、広く普及した装置である。揚水装置によって水を高い位置にあげ、そこから傾斜する板上を水が流れ下るようにし他もので、板には凹凸の模様が彫り込まれ、水が模様を描く工夫がなされる。下り降りた水は水盤に溜められ、そこには噴水(ファスキア)が設置されることが多い。

  • 蛇紋岩

    欧米語表記:serpentine

    建築装飾に使われる濃緑色の石。緑色の地に蛇の模様のような縞模様(白色等)が入った石で、緑色の装飾石材として効果的で、イスタンブルのハギア・ソフィアの内装ではイベリア半島産の蛇紋岩が使われた。マムルーク朝では、色のついた石を組み合わせて装飾する技法が発展し、白大理石とともに、濃緑色の蛇紋岩、濃赤色のポーフィリー、黄色のオニキスなどが多用された。エジプトでも蛇紋岩を産出するが、輸入材や古代建築の転用材もある。

  • ジョイスト(横架材)

    欧米語表記:joist, beam, girder 別称:根太(ねだ)、梁、桁

    建物の横架材(柱や壁の上に水平に架ける直線材)のことを指し、横架材によって、建物に屋根を架けることが可能となる。日本語では床を構成する場合には根太(ねだ)、天井や屋根を構成する場合には梁や桁と呼ぶ。なお、根太天井とは、上階の床組がそのまま下階の天井となったものを指す。

  • 真珠母貝(螺鈿[らでん])

    欧米語表記:inlaid mother-of-pearl work

    螺鈿細工とは、貝の内側の光沢層を象嵌した装飾技法を指す。美しい貝を小さく刻み、台となる素材に嵌め込み、表面を磨きだして模様を表現する。真珠を産する貝が光沢を持つことから、英語では真珠母貝細工と呼ぶ。カイロのマムルーク朝建築では、石製のミフラーブ(メッカの方角を示す建築装置)等に、細長い帯状や小さな幾何学図形に切り取った貝の破片を埋め込んだものが見られる。また、マムルーク朝初期には、ガラス・モザイクの中に、白い円形の貝殻をはめ込み、真珠を表現したものもある。象嵌の台となる素材は、石だけではなく木が象嵌の台となることもある。

  • スタッコ装飾

    欧米語表記:stucco, plaster

    スタッコとは、水と砂に結合剤(石灰や石膏)を混ぜた建築材料で、形成しやすく乾燥すると非常に固くなるために、装飾材料として好んで用いられた。なお、日本の伝統的な壁に用いられた左官材料としての狭義の漆喰は、石灰岩を焼いて糊やスサを混ぜたものを指す。中東において、スタッコは造形の自由度から手の込んだ浮き彫り作品とすることが多いが、そのほかの装飾技法としては、彩色、打ち抜きなどもある。

  • ステンドグラス

    欧米語表記:Stanied Glass

    色ガラスを用いた窓装飾のことを指す。中東のステンドグラスは、ヨーロッパのゴシック建築で発達した鉛接合の技法とは異なり、アラベスク模様等を打ちいたスタッコ板の裏側に色ガラスを貼る技法を用いた。古くはシリアのラッカの宮殿跡からその一部が発掘され、アッバース朝期あるいはザンギー朝のものとされる。イエメンのサナアには透過性のある雪花石膏の板を貼り付けたものもある。マムルーク朝期には手の込んだステンドグラスが作られたが、その多くは現存せずに近代の修復作品に置き換わっている。

  • スパン

    欧米語表記:span

    建物の連続する柱、あるいはアーチにおいて、柱と柱の間、あるいはアーチの間の寸法を指す。柱を林立させて平面を作る場合、例えば、直線上に6本の柱を建てると5スパンが形成される。その直行方向に3本ずつの柱を加えれば、3スパンが形成されることになり、間口5スパン奥行3スパンの建築と呼ぶことができる。

  • スパンドレル

    欧米語表記:spandrel 別称:三角小間

    矩形の中にはめ込まれたアーチを想定した場合、アーチによって切り取られた上部両脇の2つの部分(ほぼ三角形)を指す。この部分に対となる装飾を施すことも多い。

  • 赤色花崗岩

    欧米語表記:red granite 別称:桜御影

    白、黒、ピンクなどの部分からなる花崗岩の中で、赤い色合いの強いものを指し、アスワン地方に多く産出する。エジプトではファラオ時代から愛好されており、クフ王のピラミッドの墓室など重要な箇所に用いられた。マムルーク朝期には、色のついた石を並べた装飾において、ポーフィリーと共に赤色部分に使われた。またファラオ時代の赤色花崗岩製の円柱が、マリダーニー・モスク、城塞のスルターン・ナースィル・ムハンマドのモスク、スルターン・バルクークのモスクなどに転用されている。

  • 赤色斑岩(ポーフィリー)

    欧米語表記:porphyry,

    古代ギリシア語で紫を意味し、目の詰まった赤紫色の赤色斑岩のことを指す。見た目は、アスワン近郊で産する赤色花崗岩の中に類似するものもあるが、目が細かく赤黒い。その産地はハルガダ近郊の東砂漠にあり、ローマ時代に掘削が進んだ。色彩の美しさゆえに古くから珍重され、レバノンのバールベック神殿に使われた柱が、ハギア・ソフィア建設の際に運ばれ、内陣部に配置されたとされている。マムルーク朝時代には、色のついた石を装飾的に配置する際に好んで使われ、その多くは転用材である。

  • セノタフ(模棺)

    欧米語表記:cenotaph

    遺体が埋葬されていない棺、ひいては棺型の墓石を指す。イスラーム建築においては遺体は土中あるいは地下室に安置され、墓建築の中には棺型の石棺を墓石として設置することが通例である。石製、木製、レンガ造スタッコ塗りなどがあり、大きさにも決まりはなく、小さいものから大きく長いものまで様々である。背のタフの周囲に彫刻を施したり、装飾的な墓碑を加えることもある。

  • セミドーム

    欧米語表記:semi dome 別称:半ドーム

    半球ドームにおいてその頂点を通る垂直面で切りとられた球面を指し、狭義には球面の4分の1の形となる。建物の入口、あるいは広間の凹部などの天井を覆う球面状のヴォールト(曲面天井)となるため、高さ方向や奥行き方向の歪みをもつものも総称してセミドームと呼ぶことが多い。古くはキリスト教会堂のアプス(内陣奥部の半円形の凹み)に使われ、ウマイヤ朝の宮殿建築はその影響を受けた。マムルーク朝では、多くの場合は移行部(基部の矩形からドームの円形に達する部分)のムカルナス等が主流となるため、セミドーム面は小規模化するが、スルターン・バイバルス2世のハーンカーの入口には、比較的大きな実例がある。

  • タイバー(緊結材)

    欧米語表記:tie bar

    鉄や木の部材でアーチの下部を結び、アーチが外へと開こうとするのを防ぐ役割をもつ。カイロのイスラーム建築では、アムル・モスクやアズハル・モスク、ファーティマ朝期のアクマル・モスクやサーリフ・タラーイー・モスクにおいても確認できるが、これらの部材が創建当初のものかは明らかではない。アーチやドームには外へ開こうとする力(スラスト)が加わるため、それを抑えるための建築的な工夫がなされた。タイバーもその一つであり、同様な役割をもつものとしてその重量によってスラストを抑えるバットレス(控え壁)がある。

  • 大理石モザイク

    欧米語表記:marble mosaic

    モザイクとは小片を集成して図柄を表す装飾技法をさし、小片として大理石を用いたものを大理石モザイクという。ただし、大理石は狭義の石灰岩の変成岩だけではなく、鮮やかな色の石を含み、また石の場合は小片を寄せ集めて集成するだけでなく、母岩に小片を象嵌した技法も総称する。マムルーク朝建築においては、床や腰壁(人の背くらいまでの壁の下部)を飾る大まかな細工から、ミフラーブ等を飾る詳細な細工まで様々である。前者の中には、当時イタリアから運ばれたものもある。また、後者においては、青いファイアンスや真珠母貝などをその部品として用いることもある。

  • ティラーズ

    欧米語表記:tiraz アラビア語転写表記:ṭirāz

    ペルシア語の刺繍から派生した言葉で、本来は、初期イスラーム時代に特長的な帯状の銘文刺繍、あるいは帯状の銘文をもつ織物をさした。のちに、建築のファサード等の銘文帯をも指すようになった。ここでは建築に用いられた帯状のアラビア文字装飾を指す。特に、カラーウーン複合施設のファサードを飾るティラーズは著名である。

  • ドーム

    欧米語表記:dome

    半球形の屋根を指す。その出現はイスラーム以前にさかのぼるもので、イスラーム建築では墓建築あるいはモスクの中心軸上など、建築的に強調したい部分に用いられ、各地特有の発展を遂げる。特に、四角い部屋に円形断面のドームを架けるには工夫が必要で、地域ごとの特色をもつ多様な技法が生まれ、高く大きく装飾的なドームが建立された。なお、四角形のへ部屋の部分を基部、ドームとの間の部分を移行部と呼ぶ。マムルーク朝のドームは、14世紀半ば頃まではレンガ造であったが、次第に石造ドームへと置き換わっていった。内部の移行部にはムカルナスを使うことが好まれ、ドーム外観はリブの模様をつけることから次第に発展し、15世紀末には幾何学模様やアラベスクを描くものも現れた。14世紀中葉のスルタニエには二重殻ドームがみられるが、通常は単殻ドームで、高さ方向を増していく傾向を指摘できる。

  • トンネル・ヴォールト

    欧米語表記:tunnel vault, barrel vault 別称:蒲鉾型天井

    トンネル型の天井を指す。エジプトではファラオ時代にすでにこの技法が確認できる。しかし、カイロのイスラーム建築においては、アイユーブ朝期までは大規模な実例を確認することができず、13世紀前半にマドラサ等の施設とともにペルシアの影響から建設されるようになったと推察される。14世紀半ば頃まではイーワーン(大きなアーチを開口させる開放的広間)の天井に使われていたが、次第に平天井となり、トンネル・ヴォールトは通廊の天井など小規模な部分に適応されるようになった。

  • ニッチ(壁龕)

    欧米語表記:niche, alcove, recess 別称:アルコーブ、凹部

    部屋の壁を凹ませた部分を指す英語で、上部にアーチを架け、内部に彫像などを置くことが多い。イスラーム建築においては、モスク等でメッカの方角を指し示す装置(ミフラーブ)がニッチの形を取る。同様な部分を示す言葉としてアルコーブも使われるが、アルコーブの方がより大きな空間を指す傾向がある。

  • 根太天井

    欧米語表記:joist ceiling

    根太は床に架ける水平材(横架材)をさし、部屋の幅の材料(根太)を数十センチメートルおきに渡して、その上に床をはる。上階の床を構成する構造的な根太がそのまま下階の天井に姿を現しているものを根太天井という。日本の木造建築では、天井は構造材から吊り下げられる形となり、根太天井はそれほど多くない。しかし、中東の建築においては、屋根や上階の床がそのまま下階の天井となることが多いので、平らな天井の場合は根太天井であることが多い。民家等において屋根や2階の床を作る際には、棗椰子の幹を横架材(根太)とし、その上に棗椰子の葉で編んだマットを敷き、土をのせて床とする。これも一種の根太天井である。

  • ノルマン建築(シチリアの)

    欧米語表記:Norman Architecture (Sicily)

    東ローマ帝国の支配下にあったシチリアは、827年にチュニジアを拠点としたアグラブ朝の支配下に置かれ、その後11世紀後半までの約250年間はイスラームの支配が続いた。ノルマン人の活動により、12世紀前半にはノルマン王国が成立する。このような過程で、イタリア半島とチュニジアを結ぶシチリアには、ノルマン王国の元の12世紀に、アラブ・イスラームの要素とビザンティン・中世イタリア・キリスト教の要素が入り混じった特異な建築様式を作り出した。アラブ・ノルマン様式とも呼ばれ、建築実例としては、パレルモのパラティーナ礼拝堂、ズィーザ宮殿、パレルモのカテドラル、モンレアレのカテドラル、チェファルの大聖堂などがあり、2015年に世界遺産に登録された。

  • ハーンカー

    欧米語表記:Khanqa アラビア語転写表記:Khānqāh

    スーフィーのための施設・建築物の名称。ペルシア語起源の言葉で、元々は中央アジアで使われていたで用いられていたが、セルジューク朝の西方進出に伴ってエジプト・シリアでも使われるようになった。カイロでは、特に有力者・スルターンが建設した大規模なスーフィー向けの修道場をハーンカーと呼び、より小規模な修道場はザーウィヤなどと呼ばれた。

  • バシリカ式

    欧米語表記:Basillica

    東ローマ帝国の支配下にあったシチリアは、827年にチュニジアを拠点としたアグラブ朝の支配下に置かれ、その後11世紀後半までの約250年間はイスラームの支配が続いた。ノルマン人の活動により、12世紀前半にはノルマン王国が成立する。このような過程で、イタリア半島とチュニジアを結ぶシチリアにおいて、アラブ・イスラームの要素とビザンティン・中世イタリア・キリスト教の要素が入り混じった特異な建築様式が創出された。この様式は、アラブ・ノルマン様式とも呼ばれ、建築実例としては、パレルモのパラティーナ礼拝堂、ズィーザ宮殿、パレルモのカテドラル、モンレアレのカテドラル、チェファルの大聖堂などがあり、2015年に世界遺産に登録された。

  • 馬蹄形

    欧米語表記:horse-shoe arch

    円の半分は半円となり半円アーチはこの形を使うが、上部の半円よりもさらに下部の半円の一部を含む部分、すなわち馬蹄の形のものを半円馬蹄形アーチという。半円ばかりでなく、尖頭形アーチにおいてもアーチの最大幅から下方でさらに幅を狭めた場合は馬蹄形アーチとなる。また、平面上のニッチやアルコーブ(壁の凹部)の場合も、半円よりも大きな範囲を囲む場合は馬蹄形となる。コルドバのメスキータのミフラーブ(10世紀)は、平面にも立面にも馬蹄形アーチを使った好例である。馬蹄形アーチは、アンダルシアやマグリブなど地中海西方の建築に顕著である。

  • ピア(構造柱)

    欧米語表記:pier

    建築を支える構造的な垂直部分を指し、コラム(円柱)に比べて断面が大きく、壁と一体化している。例えばカイロのイスラーム建築の早い例ではイブン・トゥールーン・モスクやハーキム・モスクにおいてはピアが使われ、アムル・モスクやアズハル・モスクにおいてはコラムが使われる。

  • ビザンティン建築

    欧米語表記:Byzantine Architecture 別称:ビザンツ建築

    ビザンティン建築は、330年に成立し1453年まで続いた東ローマ帝国(ビザンツ帝国)の支配下の領土の建築を指す。ただし、その領土の広がりと国力からも、イスラームの勃興前後に分けて考える必要性がある。イスラームが起こる以前の地中海周辺のキリスト教建築を初期キリスト教建築と呼び、その概念は東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルに作られた初期ビザンティン建築の代表とも言えるハギア・ソフィアなども含む。初期ビザンティン建築をも含む初期キリスト教建築では、モザイクなど古代ローマの伝統が継承されると同時に、東方からの影響の下でドームが発展した。イスラームの勃興以後、東ローマ帝国は、アナトリア半島から東ヨーロッパに縮小し、ガラス・モザイクなどの技法を継承し、小型ながらドームを中心とした特有の教会堂形式を創出した。

  • ピシュターク(四方形の壁面)

    欧米語表記:pish taq (entrance arch)

    ペルシア語に由来し、イーワーン等の大アーチの外側を囲む高く立ち上がった壁部分を指す。イランや中央アジアでは、ピシュタークが一段高く立ち上がることが通例で、カラーウーンのマドラサの礼拝室とそこに向かい合うイーワーンはその一例である。カイロではスルターン・ハサンの4つのイーワーンように壁の高さが等しくなる例が多く、ピシュタークが立ち上がる例は少ない。

  • 欧米語表記:mausoleum アラビア語転写表記:ḍarīḥ/turba 別称:墓建築

    墓の上に建設された建物(墓建築)を指す。イスラームのハディースには墓石や墓碑を建てることを禁じているが、メディナにある預言者ムハンマドの墓をはじめとし、高位高官の墓や聖者などの墓は建築物を伴うようになった。マムルーク朝建築においては、スルターンやアミールたちは自身の廟を建てる際に、モスク、マドラサ、ハーンカー等の宗教施設を併設し、公共の福祉に寄与しながら、自身の墓が永続することを願った。

  • 平天井

    欧米語表記:flat ceiling, flat roof

    平らな天井を指す。通常は水平の横架材を渡し、その上に平らな面を構築するので、根太天井となる。

  • ファイアンス

    欧米語表記:faience

    近世ヨーロッパの錫釉陶器をさし、イタリアの焼物産地ファエンツァに由来する。その後、古代エジプト特有の青い焼物を同じくファイアンスという言葉で呼ぶようになった。

  • ファサード

    欧米語表記:facade

    建物の正面外観(立面)のことをファサードという。

  • 複合施設

    欧米語表記:complex

    機能を異にする建物を一つの施設として同時期に建設されたものを指す。例えば、カラーウーンの寄進施設は、マドラサ、廟、病院からなる複合施設である。なお、複合施設の中には、スルターン・ハサン・モスクに併設された孤児院や救貧施設などのように、一部の施設が消失し、現存していないものもある。マムルーク朝やティムール朝にもよく見られるものであるが、特にオスマン朝治下のイスタンブルにおいて数多く建設され、トルコ語でキュッリイェと呼ばれるようになる。

  • フリーズ(装飾帯)

    欧米語表記:freeze

    西洋建築史の用語で、古代ギリシア・ローマ建築の柱の様式において上部のエンタブラチュア(柱上の水平部分)を構成する要素の一つで、下からアーキトレーブ(主梁)、フリーズ、コーニス(軒蛇腹)から構成される。これから派生して、装飾を伴う水平帯も、フリーズと呼ばれるようになる。

  • フリンジ

    欧米語表記:fringe, border, edging 別称:連続縁(ふち)装飾

    線状の縁や繰形(モールディング)を多数並べた房のような装飾。ミナレットや墓塔などに彫られる、帯状の浮き彫り(断面が角形や円形となる)を指す。デリーのクトゥブ・ミナールが代表的な例であるが、カイロの城塞にあるスルターン・ナースィル・ムハンマドのモスクのミナレットなどにもフリンジ装飾が見られる。なお、ドームの外側に同様の装飾を施したものをリブ・ドームと呼び、カイロのマムルーク朝建築においては、サルガトミシュの複合施設やタグリー・ビルディーの複合施設のドームに見られる。

  • ベイ(小間)

    欧米語表記:bay

    柱を林立させた多柱式建築において、近接する柱に囲まれた部分を指し、普通は四角形平面となる。日本語では間(けん)が相当し、日本建築では間口X間奥行Y間の建物と表現する際などに用いる。

  • ペンデンティブ・ヴォールト

    欧米語表記:pendentive vault

    曲面天井の一種。矩形の頂点に配された4本の柱に掛かる4つのアーチから連続的な球面としたものを指す。幾何学的には半球面に対して、半球を投影した円形に、内接する正方形を描き、正方形に垂直な面で切り取ったときにできる曲面となる。その際の切断面は半円アーチとなるので、その4つの頂点を結ぶと上部に縮小された円ができる。この作業によって、上部の円から4つの三角形状の曲面ができるため、ペンデンティブ(垂れ下がる三角形、逆三角形)技法と呼ばれる。

  • ボーダー

    欧米語表記:border

    壁面を分割する装飾において、一つの単位となる文様の周囲を囲む帯部分を指す。絨毯等の外周を囲む帯をも指す。ボーダーをつけることによって、内部に囲まれた模様を引き立たせる効果を狙ったものである。

  • マドラサ

    欧米語表記:madrasa

    主にイスラーム諸学を教える寄宿制の高等教育施設。9世紀のホラーサーン(イラン北東部)地方を発祥として、11世紀後半にはセルジューク朝によって治下の主要都市に建設されるようになった。エジプトでも、特にアイユーブ朝期以降盛んに建設されるようになり、マムルーク朝期はエジプトにおけるマドラサ建設の最盛期であった。

  • ミナレット

    欧米語表記:minaret アラビア語転写表記:mu'adhina/manār 別称:光塔

    アラビア語の光(ヌール)あるいは火(ナール)から派生したマナーラが英語に入った言葉で、日に5回の礼拝への呼びかけ(アザーン)を呼びかけ人(ムアッズィン)が行う塔を指す。エジプトでは、アザーンの場所という意味からマアザナと呼ばれることも多い。ドームと並んで建物の外観を強調する重要な要素となり、工夫を凝らして飾られた塔には、地域や時代の特色が現れる。マムルーク朝においては、途中のバルコニーごとに断面形を変化させ、頂部に宝珠をいただく石造のミナレットが発達した。

  • ミフラーブ

    欧米語表記:mihrab アラビア語転写表記:miḥrāb 別称:壁龕

    イスラーム教徒は礼拝の際にはメッカの方角に向かうため、モスクや墓等の宗教施設にはメッカの方角を示す装置が設置され、それをミフラーブと呼ぶ。アーチの形をしたものがほとんどで、平らな壁に作られたアーチの場合もあるが、壁に凹部を作って立面をアーチとすることが好まれた。ミフラーブの数は決まっておらず、一つのモスクに一つとは限らないが、マムルーク建築においては、単一のミフラーブが礼拝室の中央壁装飾の焦点となることが一般的で、色の付いた石や象嵌細工を組み合わせる装飾技法が用いられた。

  • ミンバル

    欧米語表記:minbar アラビア語転写表記:minbar 別称:説教壇

    金曜日の昼の礼拝の際に導師(イマーム)が説教(フトゥバ)を行う大モスクに備えられた階段状の壇を指す。マムルーク朝では木製のミンバルが一般的ではあるが、アークスンクル・モスクやスルターン・ファラジュのモスクには石造のミンバルがある。なお、同様な高台の装置として、礼拝室の中央部に設置された高い壇(ディッカ)があり、集団礼拝の先導のために使われた。

  • ムカルナス

    欧米語表記:muqarnas, stalactite, honey comb vault アラビア語転写表記:muqarnaṣ 別称:鍾乳石飾り、蜂の巣天井

    イスラーム建築で使われる持ち送り構造の装飾の一種。イスラーム建築で特異に発展した建築装飾技法で、小さなアーチで縁取られた小曲面を水平方向に並べ、さらに垂直方向に重ねることによって構成される。有機的な構成に見えるが、その配置法は平面幾何学に則っている。マムルーク朝においては、ドームの移行部と入り口セミドーム部分をムカルナスとすることが定着した。

  • ムカルナス・コーニス(鍾乳石軒飾)

    欧米語表記:muqarnas cornice

    ファサードのコーニス(軒)部分に設置されたムカルナスを指す。最上部の連続するコーニスを飾る場合と、その下の窪み上部の直線部を飾る場合がある。また、ミナレットのバルコニー部分にもムカルナスが用いられた。

  • メダイオン装飾

    欧米語表記:medallion

    円形の建築装飾を指す。アーチのスパンドレル(アーチ両肩の三角小間)と対になるように使われる例は、広くイスラーム建築に見受けられる。カイロでは、アズハル・モスクの中庭ファサードにおいて、アーチの頂部に配置されたメダイオン装飾を見ることができる。その後、ファーティマ朝のアクマル・モスクにも同様なメダイオン装飾が見られ、マムルーク朝期には壁面だけではなく、床面等の様々な箇所に、様々な分割法でメダイオンの装飾が挿入された。特にカラーウーンの寄進施設では円形装飾の使用頻度が高く、アーチとの組み合わせ、病院の窓装飾などは、幾何学的構成の高度さを示す実例である。

  • モスク

    欧米語表記:mosque アラビア語転写表記:masjid

    イスラーム教徒の礼拝する場所を指す。金曜日の昼の集団礼拝を行う大モスクから街角の小さなモスクや飛行場の礼拝室など様々である。マムルーク朝のモスク建築においては、いわゆる多柱式とするものは限られている。

  • 寄木天井

    欧米語表記:wooden mosaic, parquetry

    寄木天井とは、異なる木目や色の木材を組み合わせて模様を表現する寄木細工の技法によって作られた装飾的な天井を指す。マムルーク朝の作品には、小ドームなどを用いて凹凸をつくって模様を表現したり、金泥など彩色を加えた複雑なものもある。こうした寄木細工の技法は木製のミンバルにも用いられ、秀作が多い。

  • リンテル(まぐさ)

    欧米語表記:lintel アラビア語転写表記:ataba

    リンテルは垂直部材(柱、ピア、コラムなど)の上に水平に渡された部材(梁、桁根太など)を指し、日本語では楣(まぐさ)と呼ぶ。建築の基本的な構法として、楣式(梁式)、アーチ式、壁式などがある。

  • ろくろ細工

    欧米語表記:turnery work アラビア語転写表記:khirāṭa

    回転する装置としてのロクロ(回転する切断機)は陶芸などで用いられるが、エジプトにはロクロを用いて木材を加工する技法がある。円形の断面形が変化していく小さな部品を作成し、それらを接合して背後が透かしてみえる細工を作るもので、アラブではマシュラビーヤと呼ばれる。空気や光を透過するが、外部から内部の様子が見えない特性を利用して、住宅等の窓の格子として使われる。

  • ロマネスク建築

    欧米語表記:romanesque architecture

    西洋建築史の時代区分の一つで、10世紀後半から12世紀末までの西ヨーロッパの素朴で鈍重な教会堂建築の様式を指し、12世紀後半からはより軽妙で構造的なゴシック建築へと推移するとされる。11世紀末から15世紀末まで断続的な十字軍遠征を通して、ヨーロッパのキリスト教建築と中東のイスラーム建築は相互に影響を及ぼした。

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