架構技法の一覧

  • クロス・ヴォールト(交差曲面天井)

    欧米語表記:cross vault 別称:交差ヴォールト

    2つのトンネル・ヴォールトを直角に交差させた時にできる曲面天井。ヴォールト(曲面天井)は、四方のアーチの互いに向かい合う頂点をつなぐ十字形と、互いに向かい合う起拱点(アーチの最下点)を結ぶアーチの稜線から構成される。西欧のゴシック建築において、稜線部をリブ(突出した帯)として強調することによって、特異発展した技法である。イスラーム建築でも散見されるが、ゴシック建築と比べると副次的な技法にとどまる。カイロのマムルーク朝においては、アークスンクール・モスク(1346年)に大規模な実例がある。

  • 格間天井

    欧米語表記:coffer ceiling 別称:格天井

    天井を平滑面とするのではなく、四角形などの枠組みを反復・分割して凹凸をつけて構成する技法で、格間は突出する部分によって分割された凹んだ部分を指す。日本では仏教寺院内陣部や、二条城の大広間などの格の高い空間に使われる。また、ローマのパンテオンのようにドーム曲面に採用されることもある。中東のイスラーム建築においては、幾何学模様で格間を作ることもあり、より発達すると木製ムカルナスの天井となる。

  • ドーム

    欧米語表記:dome

    半球形の屋根を指す。その出現はイスラーム以前にさかのぼるもので、イスラーム建築では墓建築あるいはモスクの中心軸上など、建築的に強調したい部分に用いられ、各地特有の発展を遂げる。特に、四角い部屋に円形断面のドームを架けるには工夫が必要で、地域ごとの特色をもつ多様な技法が生まれ、高く大きく装飾的なドームが建立された。なお、四角形のへ部屋の部分を基部、ドームとの間の部分を移行部と呼ぶ。マムルーク朝のドームは、14世紀半ば頃まではレンガ造であったが、次第に石造ドームへと置き換わっていった。内部の移行部にはムカルナスを使うことが好まれ、ドーム外観はリブの模様をつけることから次第に発展し、15世紀末には幾何学模様やアラベスクを描くものも現れた。14世紀中葉のスルタニエには二重殻ドームがみられるが、通常は単殻ドームで、高さ方向を増していく傾向を指摘できる。

  • トンネル・ヴォールト

    欧米語表記:tunnel vault, barrel vault 別称:蒲鉾型天井

    トンネル型の天井を指す。エジプトではファラオ時代にすでにこの技法が確認できる。しかし、カイロのイスラーム建築においては、アイユーブ朝期までは大規模な実例を確認することができず、13世紀前半にマドラサ等の施設とともにペルシアの影響から建設されるようになったと推察される。14世紀半ば頃まではイーワーン(大きなアーチを開口させる開放的広間)の天井に使われていたが、次第に平天井となり、トンネル・ヴォールトは通廊の天井など小規模な部分に適応されるようになった。

  • 根太天井

    欧米語表記:joist ceiling

    根太は床に架ける水平材(横架材)をさし、部屋の幅の材料(根太)を数十センチメートルおきに渡して、その上に床をはる。上階の床を構成する構造的な根太がそのまま下階の天井に姿を現しているものを根太天井という。日本の木造建築では、天井は構造材から吊り下げられる形となり、根太天井はそれほど多くない。しかし、中東の建築においては、屋根や上階の床がそのまま下階の天井となることが多いので、平らな天井の場合は根太天井であることが多い。民家等において屋根や2階の床を作る際には、棗椰子の幹を横架材(根太)とし、その上に棗椰子の葉で編んだマットを敷き、土をのせて床とする。これも一種の根太天井である。

  • 平天井

    欧米語表記:flat ceiling, flat roof

    平らな天井を指す。通常は水平の横架材を渡し、その上に平らな面を構築するので、根太天井となる。

  • ペンデンティブ・ヴォールト

    欧米語表記:pendentive vault

    曲面天井の一種。矩形の頂点に配された4本の柱に掛かる4つのアーチから連続的な球面としたものを指す。幾何学的には半球面に対して、半球を投影した円形に、内接する正方形を描き、正方形に垂直な面で切り取ったときにできる曲面となる。その際の切断面は半円アーチとなるので、その4つの頂点を結ぶと上部に縮小された円ができる。この作業によって、上部の円から4つの三角形状の曲面ができるため、ペンデンティブ(垂れ下がる三角形、逆三角形)技法と呼ばれる。

  • 寄木天井

    欧米語表記:wooden mosaic, parquetry

    寄木天井とは、異なる木目や色の木材を組み合わせて模様を表現する寄木細工の技法によって作られた装飾的な天井を指す。マムルーク朝の作品には、小ドームなどを用いて凹凸をつくって模様を表現したり、金泥など彩色を加えた複雑なものもある。こうした寄木細工の技法は木製のミンバルにも用いられ、秀作が多い。

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